hanna_and_art’s blog

文化史本好きが、「文化史系本のガイド」を目指します。美術、世界史と絡んだ様々な文化史関連本をご紹介します。

蛇舌石 かえる石 毒殺を防ぐための道具

アレクサンデル6世 

誤って飲食物に混入した砒素による中毒か。バチカンに蔓延するマラリアのためなのか。

バチカン教皇、変死したレオ10世(在位1513年ー1521年)、アレクサンデル6世(在位1492年ー1503年)の死には根強い毒殺の噂が有りました。

 

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アレクサンデル6世

 

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アレクサンデル6世のカリカチュア

 

「悪魔が教皇に化けている」とまで言われたアレクサンデル6世。

世界史では、1494年に締結されたトルデシリャス条約で名前が出てきます。

 

本名はロデリク・ボルハ、スペイン出身ですが、イタリア語読みの「ロドリーゴ・ボルジア(Rodrigo Borgia)」の方が知られています。

神に仕える聖職者であるのにチェーザレやルクレツィアなど庶子がいました。

しかも、邪魔な政敵を、「ボルジア家の毒薬」を使って暗殺してしまうという黒い噂も…。

 

ランギエ、赤珊瑚、トード・ストーン 

彼らが在職中、いえ、彼らだけでなく、多くの教皇たちは毒殺を恐れていました。

毒殺を未然に防ぐため、食卓や料理などに毒が仕込まれると、それに反応するような道具が「発明」され用いられます。

教皇庁の宝物館の目録には、そうした品々がたくさん載っているのだそうです。

 

その多くが、金属や珊瑚でできた木の形をしたお守りだった。そうした「ランギエ」には重さが六リーブルに達するものもあり、「ランギエ」の名は蛇の舌(ラング)が含まれていたことに由来する。教皇たちはそれを借りたり、贈り物として受け取っていた。

(『毒殺の世界史 下 ~教皇アレクサンデル6世からユーシェンコ大統領まで 』
フランク・コラール (著), 吉田春美 (訳) 原書房 P25) 

 

中世ヨーロッパにおいて、血の色でもある赤は、「止血」や「魔除け」「毒避け」の護符として用いられました。(『色で読む中世ヨーロッパ』徳井淑子著 講談社選書メチエ
12世紀の『薬草の書』によれば、赤珊瑚は鼻血にも効くという(P74)
赤い珊瑚の腕輪には、ペストの侵入防止の効果も期待されていたそうです。

 

珊瑚のお守りは、王侯貴族の食卓上の塩壺につけられるときがある。「ひと枝の珊瑚と蛇舌石のついた塩壺」という記載が、十四世紀にベリー地方を治めたフランス王弟ジャンの宮廷の帳簿にあるからである。蛇舌石とは文字通りlangue de serpentと記されている石であるが、実際は不明である(ウンベルト・エーコは『薔薇の名前』にこの石を書き込んでいる)。「かえる石」と呼ばれるトードストーンを指しているのかもしれない。この石はサメの歯が化石化したものであることが今日では知られているが、中世ではヒキガエルの頭の中にあり、毒を見分けるちからがあると信じられていた。近くに毒があると、この石に触れている指が熱くなるのだと鉱物誌は言う。
 いずれにしても、これらの石は毒避けであり、珊瑚にも同じ効果が期待されていたということである。(中略)食事による毒殺を中世の人々が恐れていたこと、つまりそのような毒殺が多かったことを物語っている。

(『色で読む中世ヨーロッパ』 P75)

 

フランス王弟ジャンとは、『ベリー公のいとも華麗なる時祷書』で知られる人物です。 hanna-and-art.hatenablog.com

 

身を飾ったり富を誇示するといった役割だけでなく、中世の人々は、宝石や宝飾品に、ある種の隠された力、特に魔術的な力を求めました。

 

 自然物に特殊な魔力を認めるという行為は、太古から人間についてまわったものだ。原始的なアニミズムの一種で、強い動物の爪などを身に付けることで、その動物と同じ力が備わると考えた古代人と同様、ある宝石や石などの特殊な性質が特別な力を生んで、それを用いる人に役立つと信じたのである。
(中略)
 こうした特殊な性質を持つとされたのは、宝石だけではない。その代表例はトード・ストーンと呼ばれた石で、本当は魚の化石であったが、伝説では、これは蟇蛙(ひきがえる)の頭にめりこんでいる石とされ、これを身に付けると、あらゆる毒から身を守れるといわれた。この石を蛙の頭から取り出す方法まで麗々しく書かれているから、このために殺された蛙こそ、迷惑であったに違いない。

(『ジュエリイの話』 山口 遼著 新潮選書)

 

その、蛙の頭にめり込んでるという石を取り出す作業が、こちら。 

 

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生きている蛙の頭からトード・ストーンを取り出す図

 

 

 

娘ルクレツィア・ボルジア、息子チェーザレに関連した記事 

hanna-and-art.hatenablog.com

hanna-gemutlichkeit.hatenablog.com

 

 

元になった「ハンナとゲミュートリッヒカイト」内の記事

中世の宝石「トード・ストーン」の取り出し方~『ジュエリイの話』より - ハンナとゲミュートリッヒカイト

ベリー公の塩壺 ~『色で読む中世ヨーロッパ』より - ハンナとゲミュートリッヒカイト

主な参考図書

  • 『毒殺の世界史 下 ~教皇アレクサンデル6世からユーシェンコ大統領まで 』 フランク・コラール (著) 吉田春美 (訳) 原書房
  • 『色で読む中世ヨーロッパ』徳井淑子(著) 講談社選書メチエ
  • 『ジュエリイの話』 山口 遼(著) 新潮選書

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